日記

男子高校生と私

平日の夕方、電車に乗っているのは高校生ばかりだった。私はそんなこともすっかり忘れていたので、思いもよらなかった若さの攻撃に、下を向いて小さく座っていた。やっぱり、どんなにおしゃれをしていても、学生服には勝てない。スカートのひだ、靴下の長さ、おしりのテカテカ、もう戻れないからこそ、どれもまぶしかった。

何もしていないのも居心地が悪かったので、本を取り出して文字を追うことに集中していた。本当は、ななめ前で席の譲り合いをしている男子高校生と女子高校生に意識を持っていかれてたのだけれど(結局女子高校生がスカートも整えずにふわりと座っていた)。

しばらくして、ふと私の右側の存在感に気づいた。隣には男子高校生が座っていて、居眠りを始めていた。運動部だったみたいで、足元には大きなエナメルバッグが置かれていた。こくり、こくりと船をこいでいたんだけれど、それがだんだんと私のほうへ向かってきているみたいだった。私は、このまたとないチャンスに、精いっぱい右肩へと意識を集中した。駅についてブレーキがかかるたび、順調に男子高校生は私のほうへ近づいてきていた。男子高校生はよっぽど疲れてるみたいだった、少し乱暴に電車が止まっても、全く起きる様子がなかった。

あともう少し、もう少しで私は男子高校生にさわれる。私は周りに気づかれないように、ほんのちょっとだけ、男子高校生のほうへ体を傾けた。もう本の内容など完全に入っていなかったけれども、わざと難しい顔をしてページをめくっていた。

そうしてついに、男子高校生の左肩が、私の右肩に到着することができた。まだ衣替え前だったので、お互い長袖だったんだけれど、私は、布の存在を消すことに成功した。そこには、少し熱をおびた、筋肉質の腕が存在していた。野球部かサッカー部なのかな、男子高校生の顔は少し日焼けしていて、同じように腕も健康的な色をしていた。後ろの窓からは西日が差し込んできて、私たちの肩も優しく穏やかな光に包まれていた。

ここで私は欲を出した。もっと重さを感じたい、そして腕と腕が合わさって一つになるまでずっとこうしていたいと思ってしまった。けれどもそんな邪念が伝わってしまったようで、ほどなくして男子高校生は眠りから目覚めてしまった。そして何事もなかったかのように私の肩から離れていった。

私も何事もなかったかのような顔をして読書に戻り、目的の駅に着いたらすずしい顔をして降りて行った。本は1ページも進まなかった。